2019年3月3日日曜日

7年10ヶ月

7年10ヶ月
from : NPO法人・犬猫みなしご救援隊・代表ブログ・みなしご庵へようこそ
2月25日のこと

中日新聞社の記者さんから
広島本部に電話があり

「中谷さんたちが
2011年5月に楢葉町で保護した犬で

その後
長野県諏訪市のお宅に行った犬の

保護当時の
詳しい話を教えてほしいのですが」

・・・と聞かれました。

『唐突に諏訪市に・・・と言われても
どの子のことかわからん』

あのときの話か・・・

住民全員が強制避難させられ
誰もいなくなってしまった寂しい寂しい

あの福島原発20km圏内から
私たちが命をかけて連れ出した犬です。

私は
いい加減な答えをしたくなかったので

素直に『わからない』と答え

記者さんから
その犬の今の写真を送ってもらいました。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


福島原発20km圏内の犬なら

姿さえ見れば
思い出せる自信がありました。

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


私たち犬猫みなしご救援隊が
1年9ヶ月かけて

福島原発30km圏内から保護した
犬猫1400匹のうち

原発20km圏内から連れ出した犬は
ザッと500匹ぐらいいます。

その500匹には

発見から保護して車に乗せて
原発20km圏内から連れ出すまでに

1匹1匹それぞれに
深い深い物語があるので

連れ出したその日のうちに
飼い主さんのもとへお届けした子でさえ

顔も鳴き声も歩き方も・・・

私には
昨日のことのように思い出せるのです。

それは7年10ヶ月経った今でも
あせることはありません。

だけど
あれから7月10ヶ月も経ち

新しい家族のもとで
幸せをつかんだ子たちは

顔立ちがゴロッと変わっていて

私の止まったままの脳では
サッパリわかりませんでした。

そ〜じゃ!
ゆめまるの智子に聞いてみよッ!

「中谷さん!諏訪なら
つないでくれたのは福本さんだよ」

そっか・・・
福本さんからの連絡を待ちました。

「お久しぶりです中谷さん!

諏訪の子は私がつなぎました。
管理番号は《との84番》でしたよ」

との84ということは
5月の84番目に保護した子です。

84番目ということは

おっちょこが
5月11日で《との100番》だから

それより前
おそらく5月10日に連れ出した子

5月10日に
楢葉町から連れ出したといえば誰?

5月10日ごろは
広野町から入っていたから・・・

ブツブツと心の中で
予想をしながらファイルを開きました。



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【と84】

わかった!
鈴の彼氏じゃ!

楢葉の上繁岡に通い詰めて
1週間かけてようやく捕まえた子じゃ!

お前じゃったんか《諏訪の子》は・・・


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あれは5月3日のこと

飼い主さんから保護依頼が来ていた
鈴ちゃんという名の犬を探しに

住所をたよりに楢葉町の自宅に行ってみると
犬が2匹おりました。

1匹は鈴じゃろ?
名前を呼ぶと尾を振った・・・

じゃあもう1匹は誰?

とりあえずその日は
写真を撮って飼い主さんに見せることに・・

鈴の飼い主さんの話だと

1匹は鈴で間違いないが
もう1匹は見たこともない・・・とのこと

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あの当時
福島原発20km圏内では

オス&メスのカップルがたくさんいて

2匹の仲は引き裂くことができないほど
強い絆で結ばれていました。

一般の実社会では
お目にかかれないほどの

オス&メスの深い愛が

人間がいなくなったあの町には
存在していました。

私たちが用意した食べ物も

先にメス犬に食べさせ
残りをオス犬が食べ

私がなにか話しかけると決まって
オス犬が前面に出て来て

オスの目は「俺が彼女を守るんだ!」
・・・という気迫に満ちていました。

鈴の彼氏もまさにその通りで

アイラインがしっかり入った
キリッとした目で

美味しいおやつで簡単に捕まった鈴を

「返せ!」
・・・と私に向かって吠えました。

『そが〜なこと言わずに
お前も一緒に行こッ!

一緒に行ったら
絶対に幸せになれるけん!』

いろいろ試みましたが

最終的には
鈴の彼氏は走って逃げて行ったので

とりあえず私たちは
鈴1匹だけ連れて帰りました。


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翌日

『鈴の帰りを待っとるかも』
・・・と鈴の家に行ってみると

やっぱり待っていました。

顔立ちや立ち居ふるまいから
そ〜ゆ〜子だと私は思っていました。

鈴の彼氏は近寄ると逃げます。
でも遠くまでは逃げません。

私たちは鈴の彼氏のための
食べ物とお水を置いて帰りました。

そんな毎日を繰り返すこと1週間

『私らには助けにゃいけん子が
この町にはまだまだおるんじゃ・・・

お前1匹のために
もうこれ以上は時間が使えんのじゃ

騙すようで悪いけど
今日は無理やり捕まえて連れて帰るけぇね』

なるべく心を傷つけないよう
時間をかけて捕まえたかったのですが

震災から2ヶ月が過ぎようとした5月
東北福島も初夏を迎え

犬にとっては過酷な
暑い季節が近づいて来ていました。

『今日こそ捕まえようや!』

私がおびき寄せたところを
田原君が捕まえる

私は三流の脇役で田原君が一流の花形

万が一 
失敗しても咬まれるのは田原君で

私は絶対に咬まれない♪

だって・・・
田原君が花形で私は脇役ですもん♪

私の合図に合わせ田原君が動き
見事に鈴の彼氏を捕まえました。

捕まえてみると
咬むどころか割とおとなしい子で

田原君が車を持って来るまでの間

私は鈴の彼氏を連れて
その辺を一周したのを覚えています。

その当時の私の仕事は

福島原発20km圏内から
栃木県の塩谷ベースに連れて帰ることで

あとはボランティアさんたちが
塩谷ベースでお世話をしてくれて

忍が
預かりさんに渡す役目で

あのころは私たちは毎日

福島原発20km圏内から
何十匹という数の犬たちを連れ出し

何十匹という数の犬たちが
塩谷ベースから関東甲信越地方へ

引き取られて行っていました。


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その中の1匹
私の中では《鈴の彼氏》が

今も元気で諏訪にいるらしい・・・

それがわかると
そりや〜会いたいですよ私は!

あの寂しい町から
1週間かけて連れ出した子です。

会いたい気持ちはつのるばかりで
私はなんとか時間を作ろうと考えました。

そして3月2日

東京清瀬で
猫6匹を5分10分の短い時間で捕まえ

うみさんタクシーに乗せ
『この子たちを頼むね!』

みなしごバスは諏訪湖を目指しました。


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諏訪の自宅に着くと

福島県楢葉町にいた《鈴の彼氏》が
待ってくれていました。

おや?おや?
セーターを着とるじゃないか♪


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助けたくて助けたくて
1週間かけて捕まえた子です。


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会っていきなり
こんな顔で申し訳ないけど(笑)

そりや〜オバチャン泣くさ・・・


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元気じゃったんか?

幸せそうで良かった・・・


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あのとき
あきらめんで良かった・・・

無理やりでも捕まえて良かった・・・


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《鈴の彼氏》が
ここのお宅に来たとき

ここのお宅の
長男の太郎さんがボートの日本大会で

金メダルを取ったんだそうで

金メダルを取った太郎・・・から
《金太》キンタ君になったんだそう

「キンタが来てからは
うちはいいことばかり起きるのよ」

・・・とお母さん

そ〜思ってもらえるなんてね
キンタは幸せじゃ!


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福島原発20km圏内から
長野の諏訪に来たキンタは

毎月《サロン》に行き
トリミングをしてもらっているんだそう

そして

夜はお母さんの布団の中に入って
お母さんと並んで寝ているんだそう

良かった・・・ホンマに良かった・・・
連れ出した甲斐があった・・・


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キンタを

ここのお宅につないでくれた
ハッピーテールの福本さんと

キンタのお母さんと

中日新聞社の記者さんに
撮ってもらった記念の1枚


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「ところで・・・

あの太った
茶色いオバチャン誰じゃろ?

ボクにはまったく
見覚えがないんじゃが」

                                            by  キンタ

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7年と10ヶ月の歳月は

キンタを黄金色に輝かせ
私に20kgものぜい肉をくれた・・・

だから私は
キンタの写真を見てもわからなかったし

キンタは
私のことをどこの誰かもわかっていない

それでええんじゃないですか?

キンタ!
これからも諏訪で幸せに暮らしんさいね♪

7月10ヶ月経った今
幸せそうなキンタに会えて本当に良かった

これからも・・・最期の最期
・・・看取りのときまで

どうかどうか
キンタを宜しくお願い致します。

特定非営利活動法人・犬猫みなしご救援隊  
理事長・中谷百里